転任、退任が決まったら、引き継ぎや転任先への挨拶など、慌ただしくなります。
そうした中、大切にしたい仕事の一つが、離退任式での挨拶。
どんなことを話したらよいか、悩む方もいるかもしれません。
ここでは、私が退任する際にお話しさせていただいたことをお伝えします。
当時の私の立場
転職を控えた30代の一教諭でした。
そのため、離任者ではなく退任者としての立場で挨拶をしました。
挨拶のテーマ
「学校の勉強とは何か」について、私なりの考えを伝えました。
最後に勤めていた高校は、いわゆる進学校と呼ばれるところではなく、
勉強に対して後ろ向きな生徒が大半を占める学校。
そんな生徒たちに向けて、授業に対する思いが少しでも前向きなものとなることを願い、メッセージを考えました。
話す内容を考えるにあたって私自身、学校って希望が詰まった場所なのだと、改めて思いました。
当時の私の気持ち
学習が苦手な生徒と向き合う時、私の根底には、
「勉強がわからなくても、授業を受けることには意味がある」という思いがありました。
英語科教員であった私は、こんなことを口にする生徒をよく目にしました。
「英語なんて自分の人生で使わない。日本の企業に就職するし、海外に行かないし。勉強しても意味ない。」
その意見に対して私が伝えていたのは次のような内容です。
「(英語を)使わなくていいし、理解しなくていいよ。世の中にはこんな言語があるのだ、ということを知るだけでいいよ。」
「英語って結論先行の語順とる言語なんだけど、そのことを知っているだけで、人生の選択肢が広がるかもしれない。」
「例えば、『英語のような伝え方の方が、暗に示す日本語より自分の肌に合うと感じる』と思った時。
明確に主張を伝える話し方の人たちと過ごしたい、働きたいと思った時に、『英語って確かそうだったよな、英語圏で過ごすことで、それが叶うのかも』って学ぶきっかけになるかも。
あるいは、英語にこだわらず、似た文法構造を持つ言語には、他に何があるのかな、と興味が広がったり。
だらか、理解をせずとも、その世界を知っているというだけで、意味はあるんだよ。
これってどの教科にもあてはまる。」
こう、常々思っていた自分の考えを挨拶に取り入れました。
挨拶内容抜粋
〜 冒頭・感謝の言葉(省略)〜
私はこの3月をもって、教員を辞めます。
教育現場を去るにあたって、学校とはどういう場所であるかを考え直しました。
みなさんは勉強は好きですか。
好きな科目もあれば、苦手な科目もあるかと思います。
苦手な科目に対しては、こんな感情を抱いているかもしれません。
難しくて理解できない、興味がない、すぐに忘れる、など。
学校は、
知識を増やし、理解力を身につけるところだと考える人もいると思います。
もちろん、世の中には知識量や理解力が測られ、それらが評価の基準になる場面はあります。
その時には、求められる力を身につける必要があるでしょう。
一方で私は、学校で学んだことは忘れてもいいと思っています。
すべてを理解できなくてもいいと思っています。
ただ、
その学問と向き合って、自分はどう感じ、何を考え、思ったか、といった
思考を巡らせるプロセスを十分にとってほしいと思っています。
その向き合った経験が、あなたの血肉となります。
数学の世界、芸術の世界、古典の世界、体育の世界、歴史の世界、言語の世界‥
何かの折に、その時抱いた思いが役立つ日がきっと来ます。
点と点であった知識がつながる瞬間が訪れます。
ひとたび社会に出れば、広かった学問の海は、専門性を高める深い海に変わります。
潜らないと見えない世界がそこにはありますが、分野が偏るのも事実です。
だから、あらゆる世界に触れられる今、
「ふーん、そんな学問もあるのね」くらいの気持ちでもいいので、向き合ってほしいのです。
面倒臭いから、よくわからないからと、あしらわずに。
「学校とはどういう場所か」という問い対して、
「さまざまな事象に触れ、思考を巡らせる場が用意されているところ」というのが私なりの答えです。
みなさんが学校で過ごす時間は、残り1年あるいは2年間です。
あらゆる教科と向き合って、たくさん思いを巡らせる時間になることを願っています。
〜 締めの言葉(省略)〜
最後に
静まり返る体育館。
全校生徒の前でのスピーチ。
本当に苦手でした。
離退任者として壇上に上がる機会は3度ありましたが、毎回緊張しすぎて吐きそうでした。←
教員らしからぬです。
私みたいな方はあまりいないですかね?
苦手な場ですが、お世話になった生徒、教職員の皆様に挨拶できる正式な場。
感謝の気持ちと合わせて自分の思いが伝わるよう、毎度お風呂の中で練習していました。
この度離退任される先生方、今回の学校でのお仕事お疲れ様です。
転任される方、転職される方、退職される方、みなさまの新天地でのご活躍を応援しています。
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